大津市の支所統廃合とまちづくりの課題 2019/05/01
しがNPOセンター
代表理事 阿部 圭宏
大津市はこれまで合併により市域を広げ、その結果として北部・中部・南部の微妙なバランスの上で市政運営が行われてきた。ハコモノも北部・中部・南部の3カ所に配置をすることで、市民の不満を抑えてきた面がある。同じように、地域の微妙なバランスという点では、学区(小学校区)も同様であり、学区単位に支所(市民センター)を置き、自治会が学区自治連合会や市自治連合会というピラミッド構造の中で運営されている面もある。2003年当時(志賀町と合併する前)の市のホームページでは、「大津市のまちづくりは、自治会組織を中心として活動の推進が図られ、大津市自治連合会は48年の歴史をもっています。 現在、市内には627の単位自治会を基本に31学区自治連合会、市自治連合会連携のもとに地域住民の連帯感が培われ、会員相互の親睦活動、地域活動が活発に展開されています」と紹介され、大津市が自治会に力点を置いてきたことが伺える。
2006年には大津市市民活動センターが開設され、行政が市民活動・NPOとの関係性を少し構築する場面も見られるようになったが、基本的には、自治会、自治連合会中心に据えた市政運営がなされてきたことは疑い得ない事実である。
2000年の地方分権一括法の施行を機に、全国で合併の嵐が吹くようになる。合併による市域の拡大に対して、住民に身近な自治の仕組みをつくる動きも活発になっていく。滋賀においても、合併した湖南市、東近江市、長浜市、甲賀市では、地域自治組織として、まちづくり協議会、地域づくり協議会、自治振興会という名称で動き出すが、大津市では全くこうした気運が醸成されてこなかった。自治会加入率は、2007年に70%を割り込み、2018年4月には、60.2%にまで落ち込んでいる。自治会中心主義を掲げられなくなり、次の手段を探る必要があった。そこで、遅ればせながら出てきたのが、支所機能の見直しと地域自治の仕組みとしてのまちづくり協議会である。
自治会加入率の減少は、その連合体である自治連合会を含めた統治機構の正統性に関わる問題である。少なくとも、自治連合会はこれまでのような地域を代表する組織とは強弁できなくなっている。それを補完するものとして、大津市が提案しているのがまちづくり協議会である。なぜ必要なのか、どのようにつくるべきか、運営はどうするのかなど、実際にはなかなか大変であり、行政がていねいに地域への説明を行い、地域の自発性、やる気を起こすような仕掛けが大切である。
しかし、大津市が提唱しているまちづくり協議会の仕組みは、複雑化する地域課題に対応し、地域自らがその課題を解決していこうとする仕組みとして考えられているのかは疑問が残る。加えて、支所機能の見直しが同時に行われ、公民館をコミュニティセンター化して指定管理により運営していくこととされているが、どうもそこにしっかりと予算をつけていこうとするようには見受けられない。まちづくり協議会を安上がり下請け組織と捉え、押し付けようとしているようにも思われる。
滋賀県内の地域自治組織は必ずしもうまくいっているとは言えないが、その中で、まだうまくいっている感じがするのが草津市の方法である。地域への補助金を一括交付金化し、その後、支所機能を持つ市民センター・公民館をまちづくり協議会が指定管理者として運営する地域まちづくりセンターに再構築している。まちづくり協議会が雇用するセンター職員は数名配置され、その中から地域コーディネーターとして地域運営のキーパーソンとなる人が出てくることが期待されている。
大津市が草津市のようにていねいなステップを歩んでいれば、うまくいっていたかもしれないが、今の行政の動きや市民の反発を見る限り、どうもうまくいきそうにない。
ただ、市民も本当に支所が今のように維持できると思っているのだろうか。大津市の財政状況はよくないし、支所の統廃合は必要である。その上でのコミュニティセンター化も時代の要請でもある。でも、順番を間違うとうまくいかない。民主的な運営のできるまちづくり協議会を立ち上げてもらって、ベースとなる運営費を出し、それができあがった状況で市民センターのコミュニティセンター化を図って指定管理者制度を活用していればよい。
行政は、あまり焦らずに、しっかりとしたコンセプトを持ちながら、住民と話し合う姿勢が大切だ。
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