2025年11月26日
千振(せんぶり)— 苦き花の詩
友人の便りが届いた。
「センブリが見たこともないほど、咲き誇っていたよ」と。
「センブリ」とは、
千度煎じてもなお苦い薬草だという。なんともかわいそう。
けれど私にとって、センブリという言葉は、全く違っていた。
白地に紫の縦ストライプの服装の、
まるで商社で働く女性のような凛とした気品に満ちた姿がよみがえってくる。
この花は千度見ても見飽きない気高さがあるのだ。
十二年ぶりの再会を求めて、鏡山へ出かけた。
静けさに包まれた山道をいそいそと。
一汗をかく頃、ひっそりと、しかも誇らしげに姿を現した。
足元では黄と黒の縞模様のホソヒラタアブが、ホバリングしながら花から花へ。
蜜腺を囲む細毛が小さな訪問者たちを優しく導いている。
私は、白地に紫の縦ストライプに導かれたのだが。
やがてチョウも舞い降りた。静寂は小さな羽音で満たされていく。
牧野富太郎博士は薬効ということから、この名を選んだのだろう。
けれど博士もこの花の前では一瞬、筆を止めたのではないか。
「苦さ」ではなく「清らかさ」を。
「薬用」ではなく「気高さ」を。
誰かがふさわしい名をいつか、そっと贈ってくれないだろうか。




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