東野 圭吾受賞作品3冊
近くの図書館で「東野 圭吾」著者名で検索すると、同じ題名の本もあったが総件数は、優に100件を超えていた。そのほとんどが貸出中で、予約もかなりされている売れっ子ミステリー作家であった。仕方なく書籍店で1冊手に入れた。
筆者は電気工学科の出身である特異な経歴の持ち主である。著者の体験などを綴った自身の随筆で「大阪市立小路小学校、大阪市立東生野中学校と進学していった。『あの頃僕らはアホでした』、成績は『オール3』であり、また読書少年でもなかった」と振り返っている。興味ある作家だ。
読む気になったのは、東野圭吾作家の先輩にあたる同僚と10年近く仕事をしたことがあった。彼は、コンピューターが世間に行き渡っていない時代であったが、既に駆使していた。その思考方法は、限りなく論理的であった。もともとこの素質を持っていた上に、数学のかたまりである電気工学を学習することにより、より磨かれたのであろう。多分「東野 圭吾」著者もこのような頭脳の持ち主と思い読む気になった。

筆者は、1985年デビュー作『放課後』で第31回江戸川乱歩賞受賞。1999年『秘密』で第52回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞。2006年『容疑者Xの献身』第134回直木三十五賞受賞など受賞していた。この大きな区切りとなっている受賞作品3冊を選んだ。
やはり印象に残ったのは『容疑者Xの献身』であった。シンプルな条件設定からはじまり、複雑な過程を辿っていく難解な数学の方程式を解く様である。実際、筆者は「書くに当たって、数学者の先生にも会いましたし、自分自身、大学時代にかなり専門的な数学をやっていました」と語っていた。本書でも世界的超難問数学のP≠NPが問われていた。
『放課後』は、密室殺人事件を扱っている。この物語の展開は「必要十分条件」の証明問題を解く方法で謎解きを行っている。つまり、殺人は明白な事実である。この命題成り立たたせるための十分な条件を探し「誰が」に導いて行くのだ。この必要にして十分条件を求めている。
「誰が」⇔「条件1」⇔「条件2」⇔・・・・・⇔「殺人」
つまり」「条件1」は」は「条件2」であるための十分条件である。また、「条件2」は、「条件1」であるための必要条件である。「殺人」と言う結論が「誰が」と言う「仮定」との両方が成り立っているときは必要十分条件が同値となり、証明が出来たことになる。このような、数学の証明の基本になっている手法をイメージしたのであろう。
『秘密』は、作風が変わっていた。論理の追求でなく、意外性が面白かった。娘から最初に発せられたのは「あたしよ、あたし、直子なのよ」という言葉だった。筆者が何気なく投げかけてきた伏せ線が、最後に意味を成し予想外の展開が起こり、物語を全く別物にしてしまった。結論も決定的のものでなく、色んな解釈が可能な余韻を持った終わり方であった。
人気作家だけあって「講評」・「あら捜し」などは、枚挙(まいきょ)に遑(いとま)がない。仔細な矛盾点を発見しては、悦に耽っているブログも多い。その最たる例は、推理作家の二階堂黎人が自身のウェブサイトである。何れにしても、騒ぎ立てられるのは人気作家としのバロメーターでもある。
ただ一言「一度、読み始めると次から次と物語が展開していくので、最後の最後まで気が抜けず、夢中になって一気に読んでしまった。さすがに、図書館で借れないほど、人気があることを実感した」
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3冊のアウトライン
・容疑者Xの献身
花岡靖子は娘・美里とアパートで二人で暮らしていた。そのアパートへ靖子の元夫、富樫慎二が彼女の居所を突き止め訪ねてきた。どこに引っ越しても疫病神のように現れ、暴力を振るう富樫を靖子と美里は大喧嘩の末、殺してしまう。今後の成り行きを想像し呆然とする母子に救いの手を差し伸べたのは、隣人の天才数学者・石神だった。彼は自らの論理的思考によって二人に指示を出す。
そして3月11日、旧江戸川で死体が発見される。警察は遺体を富樫と断定、花岡母子のアリバイを聞いて目をつけるが、捜査が進むにつれ、あと1歩といったところでことごとくズレが生ずることに気づく。困り果てた草薙刑事は、友人の天才物理学者、湯川に相談を持ちかける。すると、驚いたことに石神と湯川は大学時代の友人だった。彼は当初この事件に傍観を通していたが、やがて石神が犯行に絡んでいることを知り、独自に解明に乗り出していく。
・秘密
杉田平介の妻子、直子と藻奈美が、スキーバスの転落事故に遭い、現地の病院に収容された。駆け付けた平介に看取られながら、直子は息を引き取る。母親が身を挺して守った藻奈美は、意識の混濁はあるものの、無傷に近い状態で救出されていた。眠ったままの状態が続く娘の病室で、妻の名前を呼びながら涙する平介に、時ならぬ声が響いた。「あなた、ここ、……よ」―。
藻奈美の体には、直子の精神が宿っていた。平介は、娘の肉体を借りた妻との、不思議な生活をスタートさせた。
・放課後
生命の危機にさらされるような出来事を何度も経験した数学教師の前島は、自分が狙われた犯罪と確信するが、敵の正体をつかめず、不安な毎日を送る事になる。『放課後』は、私立清華女子高等学校の敷地内にある更衣室で、生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。事件現場は密室。殺された教師には自殺する動機がない事から他殺事件として捜査が進められるが、進展がないままに第二の殺人事件が起こった。
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