2025年08月20日
近江富士のヒグラシ
久しぶりに近江富士へ
真夏というのに
そこはすでに秋
森林に覆われた山道は薄暗く
登っていくと
ヒグラシの鳴き声に包まれていた
どこかで涼しげに
「カナカナカナカナ…」と鳴くと
それに相槌を打つように
「カナカナカナカナ…」と
このゆったりとした「ゆらぎ」が
たまらない
ひとしきり鳴くと
汐が引くように鳴きやみ
森閑がすべてを支配する
この"間"が私の生体リズムに
安堵感をもたらしてくれる
どこからともなくヒグラシが鳴き出すと
樹林を包み込む大合唱が起こる
どこかにいる指揮者が
終わりを揃えている
このことが謎めいている
「カナカナカナ」と鳴きながら
暮れゆく空気を震わしながら
消えていく
一日の終わりを告げるその音色は
一音一音が儚い記憶を
胸に刻んでいく
ふと、山道にヒグラシが
仰向けになって転がっていた
ひらい上げてそっと
草むらにほり投げてやった
が、再びひっくり返ってしまった
悲しいかな背中に重心があるので
セミは必ず仰向けになる
死期が近いのである
地中での暮らしは長いが
地上にはわずか二週間程度だ
そこはかとなく物悲しく聞こえる
同時に
何とも心地よい音色でもある

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