安保法制に対置する
しがNPOセンター 代表理事
阿部圭宏
多くの人々が反対し、違憲だと言われてきた安保法制が強行採決により可決された。SEALDsに代表される学生をはじめとして、全国で数多くの市民による反対デモが行われた。こうしたデモは、日本における民主主義の今後の可能性を示したものと言える。国会の審議を通じて、憲法違反やそもそも法制化する意味合いの不確かさが浮き彫りになったにも関わらず、大手マスメディアの多くは、ほとんど御用マスコミと思われるような報道を垂れ流した。本来のマスメディアの役割は、知る権利を市民に保証し、権力者が暴走しないように市民が監視するのを手助けする装置のはずだが、現実はそうなっていないことをもっと我々は自覚する必要がある。
そこで、今の政治体制、安保法制を考える上で、ぜひ、読んでおきたい本を紹介したい。
まず、白井聡『永続敗戦論』である。発売以来、版を重ねるベストセラーで、石橋湛山賞などを受賞している。白井は、第2次大戦の「敗戦」を「終戦」と言い換えることが今も続いており、その欺瞞が結果として対米従属という姿勢に表れていると言う。安倍政権が安保法制化を急いだ理由は、この本を読むとよく分かる。
安倍政治の根幹に踏み込んだのが、山崎雅弘『戦前回帰〜「大日本病」の再発』である。
山崎は、戦前の最大の問題は、「国家神道体制」と「国体明徴運動」だと言う。昭和初期から敗戦に至るまで国家神道の精神が支配した。これは、明治からではなく、美濃部達吉の天皇機関説事件が重大な転機となっており、国際明徴運動も重なって、個人の否定、論理的思考の否定となっていった。こうした戦前・戦中の思考の復活を願う神社本庁、日本会議、安倍政権の関係性も本書では踏み込んで書かれている。
集団的自衛権そのものを勉強するには、木村草太『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』が分かりやすい。憲法学者の木村は、衆議院特別委員会の中央公聴会公述人としても意見を述べている。本書では、安保法制懇や閣議決定の内容もしっかりと説明されている。閣議決定をしっかり読み込めば、個別自衛権の範囲を超えた集団的自衛権の行使は違憲であると明言する。本書には國分功一郎も登場して、立憲主義と民主主義の緊張関係についても議論されている。
今の政治状況を読み解くには、中野晃一『右傾化する日本政治』がおもしろい。中野は、日本政治が限定的な揺り戻しを挟みながら、30年に渡って右傾化し、その特徴は、新自由主義と国家主義の組み合わせによって形成されてきたと言う。こうした現在につながる右傾化の流れを担う勢力を新右派連合と名付け、自由と民主の危機を説く。小選挙区制の廃止やリベラル左派連合の再生など、道は厳しいが負けられない闘いは始まっていると締めくくられている。
書店を覗くと、どぎついタイトルがつき、ド派手な装丁をした本が目立つようになってきた。日本や日本人を礼賛する本も増えている。こういう時代だからこそ、冷静に本を選んで読みたい。今回取り上げた書籍以外にも、多くの良書がある。同調圧力に負けない個人の考えをしっかりと持ち、この難局に立ち向かっていくしかない。
最後に、これだけはぜひ言いたい。安保法制に賛成した反知性主義とも言うべき国会議員の名をしっかりと覚えておこう。
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