白山から少し離れたところにある別山
白山から少し離れたところにある別山を知ったのは、青年の頃。室堂から大倉尾根をたどり白川街道の平瀬へ抜けていった。土砂を積み上げた特異な御母衣ダムに、まさに貯水が開始されていた。この光景が引き金となって一連の記憶が、脳裏に留まっていた。
雪原に日が射し、雪融け水が斜面のあちこちで流れていた。辺りから「ぱちぱち」と音がしていた。積もった雪に押し倒されていた木の小枝が、はね上がっていた。そんな中、南の方角を指さしながら、真っ白な雪を纏った上品な形をした山に向かって「あれが別山だ」と同僚から教えてもらった。 いつかは行ってみたいひとつの山になった。念願がかなったのは、人生の後半になっていた。
9月22日、白山を目指す大勢の登山客が市ノ瀬に押し寄せていた。ビジターセンターのかなり手前で係員の合図で自動車が止められた。係員は「今日は1000人以上の登山者がある」と言っていた。別山が望める南竜道の別名水平道までやってくると、あれだけ喧騒だったのが嘘のように本来の静けさが辺りを包んでいた。今夜一泊する南竜山荘へとゆっくりと足を進めた。

翌日、南竜山荘を朝早く出発した。油坂のジグザグを登り切り、尾根筋から、御舎利山・別山が望めた。白山から南に少し離れたところにあることから山名が「べっさん」と呼ばれている。欲しくもあと1mで標高2400mという謙虚さを持ち合わせた美しい姿をした山である。

別山頂上の雲の間から、存在感のある三ノ峰が眼前にあった。その先、ニッコウキスゲを見に行った赤兎山・大長山と尾根が続いているのだが、雲がかかり分らなかった。

別山から御舎利山まで戻り、天空に通じるかのような錯覚さえ感じるチブリ尾根を下って行った。

長い下りでうんざり。やっとこさ、チブリ尾根避難小屋にたどり着いたのだが、まだ、下山道程の三分の一。

若い二人ずれの山ガールにあっというまに追い越されてしまった。

白山山麓有数のブナ林に入った。ブナは動物たちに実を食べられてしまうのを防ぐため、定期的な豊凶をしているといわれているが、今年にブナの実は豊作と言われている。ブナ林に混じって巨木のトチの木もみられた。登山路には中身は食べつくされ殻だった。ここは野生動物が生息していると実感した。

いつ終わるかと思いながら、長い長い単調な下山路を下っていくと、見覚えのある市ノ瀬のバス停にたどり着いた。ここまで戻ってくると、もう歩かなくてよかった。
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