2015年06月03日

住民投票の課題と可能性

しがNPOセンター

しがNPOセンター

• 近江八幡市

認定特定非営利活動法人 しがNPOセンターです。 滋賀県内の市民活動や地域のまちづくり協議会などの活動を応援しています!

詳細

           しがNPOセンター 代表理事
                                 阿部圭宏

 大阪市を廃止し、特別区を設置するかどうかの是非を問う住民投票が終わった。今回の住民投票は、「大都市地域における特別区の設置に関する法律」に基づくもので、これまでにない大規模の住民投票となったこと、投票結果に拘束力を持つという点でも注目をされた。投票運動が通常の選挙と違い、まさに主張の違いを出して行われることもその特徴と言えるかもしれない。

 大阪市の住民投票の約1か月前に滋賀県高島市でも住民投票が行われた。市役所の庁舎整備に関するもので、合併時に定めた位置で新庁舎を整備するか、現庁舎での改築増築かを問うものであった。現庁舎での改築増築をめざす市長が庁舎の位置を定める条例の改正を求めるも、議会で2回にわたり否決(地方自治法の規定で出席議員の3分の2以上の同意が必要)され、市長提案で住民投票となった。告示から投票までにあまり時間がなく、しかも投票日が県議選と同日となったことで、投票運動に制限がかかった。投票率67.85%で、投票結果は現庁舎での改築増築賛成が65%を超えた。住民投票の結果は、大阪市と違い、市長や議会は結果を尊重しなければならないというものだったが、住民投票結果を受けた臨時議会ではまたしても否決された。

 住民投票は、住民の意思に基づき地方自治が行われる住民自治にとってとても大切な仕組みだ。通常、地方自治は、ともに選挙で選ばれた首長と議員がそれぞれの機能を果たすという二元代表制をとっているため、住民自らが政策に対しての意思を行動として表すことが難しい状況にある。こうした地方自治の現状を踏まえまがら、住民の意思を政策に反映し、住民自治を広げるために行われているのが住民投票だ。新潟県巻町での原発建設の是非を問う住民投票、徳島県吉野川可動堰化の是非を問う住民投票などで注目された住民投票が、より一般的な形で行われるように、常設型のものとして制度化される事例も出てきている。

 しかし、こうした住民投票の現場を見ると、実は課題が多いことに気づかされる。大阪市の場合は、投票率に関わらず住民投票の結果が政策決定に直結するもので拘束型と呼ばれ、ある意味分かりやすい構図となっていた。こうした仕組みは、首長や議員の解職、地方議会の解散の直接請求によって行われる住民投票と同じである。一方、高島市のような住民投票は、諮問型と呼ばれ、結果には拘束されないが、首長も議会も結果を尊重することが求められている。その意味では、住民投票結果に従わない議会というものの存在意義の正当性が問われていると言えるだろう。高島市の事例でもう一つ問題だと思われるのは、そもそも市長に発議権を与えるのはどうかということである。常設型の住民投票条例を持っている場合は、首長や議会に発議権を与えることが多いが、発議権に何らかの制約を付けている。今回は、経済団体からの住民投票の発議の要望を根拠に条例提案されているので、これもまた正当性に疑問がわく。さらに、投票日を県議選と同日にしたことでの投票運動の制限も問題がある(だからと言って、住民投票が無効ということにはならないのは当然であるが)。あるいは、小平市や伊賀市で行われた住民投票では、投票率が投票者の総数が投票資格者の2分の1に満たない場合は不成立として開票されなかった。これにも問題が多い。

 このように住民投票はまだまだ多くの問題を抱えている。住民投票はポピュリズムを生み出すとか、住民投票は間接民主制(代表民主制)を否定するものだとか、さらには、住民にそもそもまともな判断ができるのかというとんでもないものも含め、否定的な意見が多いのも事実だ。では、議会は果たして万全に機能しているのかというと、多くの方は否定的な意見を言うだろう。今の地方自治制度の中で住民自治を進展させていくには、住民投票の仕組みは欠かせない。重要案件の決定は住民投票でということが当たり前になれば、必ず民主主義は発展する。その意味においても、住民投票への理解が進み、各地に常設型の住民投票条例が制定されることを期待したい。

不適切な内容や規約違反を発見した場合はご報告ください

この記事を書いた人

しがNPOセンター

しがNPOセンター

1週間前から参加
近江八幡市

認定特定非営利活動法人 しがNPOセンターです。 滋賀県内の市民活動や地域のまちづくり協議会などの活動を応援しています!

ユーザー詳細