県下最大トチの木探訪
滋賀県北部にある朽木は、「朽木の杣は朽木谷の奥にあり、名所なり云々…」とあるように、朽木谷一帯は古来より、名木の産地として古くから盛名をはせていたところである。
正しくこの場所で、 2010年10月、「推定樹齢400年県最大のトチノキ、朽木で発見」と新聞の見出しで報道された。地元の「トチ巨木観察会」の青木繁さん(58)らが、安曇川支流から数キロ沢を登った標高約570メートルの斜面で見つけた。高さ22メートル、幹周り7.2メートル、推定樹齢400年のトチが、木伐採寸前で保護された。
さて、私が、トチの木に初めて出会ったのは、数年前、夜叉ヶ池へ行く途中、岩谷川沿いの山道であった。山育ちの仲間が、しゃがんで栗に似た実を拾い上げ、「これがトチの実だ」と教えてもらった。その時、栃もちの実ができる木であることを知った。
2009年10月イチゴ谷山から三国岳を経由して針畑川沿いの県道783号の麻生古屋梅ノ木線を下山してくると、脇にヘリポートと思われる広場がある道路を閉鎖していた。大型ヘリが轟音を鳴り響かせながら、あちらの峰、こちらの峰へと飛び回り、ロープに吊られた直径1m以上ある大型木材を回収していた。この時、トチ木とは巨大に生長することを知った。「木材の価格が低迷し、こうした大型木材しか採算が合わないのか」と思い、それ程関心もなかった。
その後、レイカディア大学の講義で朽木の森の案内人、青木繁より「安曇川源流のトチノキの巨木林」の講義を受けた。講義の内容は殆ど忘れてしまったが、私の心を突き刺すような言葉があった。正確ではないが「巨木の寿命は、人間がその木の寿命を決めている」と指摘された。人間の欲とか、都合によって切り倒してしまい、その命を奪っている現状を知った。
この様な経緯から、県最大のトチの木にどうしても出会いたいと思いが募った。

インターネットで、湖西ネイチャークラブについては、ユニークな存在として数年前から知っていたが、今回、レイカディア大学の卒業と同時に入会した。
同クラブの活動方針は、「山頂の踏破だけを目指すのでなく、主として、ゆっくり自然にふれあいながら観察」との文字がみられたので、「このクラブだ」との思いで、参加した。
V字型の谷を登り詰めていくと、私の高ぶる気持ちと異なり、その出会いは、静かに訪れた。
突然大きく広がっている急斜面に、並外れた異様と思える大樹が眼前にその姿を現した。トチの木は、どこの山にいっても、このような明るい谷筋に大きな枝を広げていた。だからすぐにこの木がトチと分った。
巨大さに畏すら感じ、魅入ってしまった。大樹を見上げる「人」と大樹が「人」を俯瞰している様から、その大きさが実感できた。人里にも巨樹があるが、こうした山深い、人目に合わないひっそりと佇む木は愛しい。
400年の長きに渡ってここに佇む巨樹は、これまで木々の厳しい生存競争を勝ち抜いた末、巨大な幹が空中に伸び、がっしりとした根は力強く大地を掴み込んでいた。風雪に耐え凌いだ古木には、強烈に発散する生命力を感じる。
ここまで、生きながらえてきた巨木には、自然と頭(こうべ)をたれ、手を合わせてしまう。聖なる思いが湧いてくるのは、極自然なことである。
植物であるが、我々人間と同じく限りある命を持っている一個の生命体である。これから秋から冬にかけて葉を落として眠りにつく。春には若葉をつけるだろう。こんな大木に出会えるときが、森を歩く者にとって無上の喜びである。これほど、心が安らぎ、慰められものはなかろう。
沢を隔てた斜面にはこれらを上回る太い切り株を確認した。
「ぽっかり」と空いた伐採された広大な空間が出現していた。無残にも残された切り株が谷間に散乱していた。

この巨樹が語ってくる話に耳を傾けてみたい。「人間がこの地球上にいなくなっても我々(木々)はあり続けるが、我々が消滅すれば、人間の存在すらおぼつかない」と厳しく言い放つだろう。
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