友人の便りが届いた。「センブリが見たこともないほど、咲き誇っていたよ」と。「センブリ」とは、千度煎じてもなお苦い薬草だという。なんともかわいそう。けれど私にとって、センブリという言葉は、全く違っていた。白地に紫の縦ストライプの服装の、...
我が家の庭に、一本の枯れ木がある。思い入れがあって今なお残してあった。盛夏の午後、珍しくシオカラトンボが飛来してきた。どうしようもなく暑かったのか、夕方まで長々と枯れ木に翅を休めていた。 その翅は照りつける陽射しの重みに耐えかねてい...
センボンヤリが春にまた秋に、蕾を付けた。でも、頑として、秋には花を咲かせなかった。 閉じたこの花は、あたたかい命を育てていた。ほら、綿毛の傘をそっとのぞかせた。風を待つ、空を知らない小さな命たち。みんな、風に乗ってひとりで旅に出るのよ...
滋賀県で開催された国民スポーツ大会の総合閉会式で、航空自衛隊の精鋭アクロバットチーム「ブルーインパルス」の展示飛行があると聞き、当日午前9時ごろ、期待に胸を躍らせながら彦根へと向かった。 彦根駅に降り立つと、既に会場へ向かう人々で...
久しぶりに近江富士へ真夏というのにそこはすでに秋森林に覆われた山道は薄暗く登っていくとヒグラシの鳴き声に包まれていた どこかで涼しげに「カナカナカナカナ…」と鳴くとそれに相槌を打つように「カナカナカナカナ…」とこのゆったりとした「ゆら...
畑は私の足音を聞いて育っている。煮え滾るような猛暑の中、畑は「まだか、まだか」と水音を待っているかのようだった。ふと足を止め、貯水槽を覗き込むと、半ば沈みかけた一枚の枯葉にしがみつくようにして、数匹の虫が必死に水面に留まろうとしていた...
息子が"母の日"にアレンジメントフラワーを持ってきた。妻は思わぬ贈り物に驚き、この日を覚えていてくれたことがよほど嬉しかったようだ。「この花の名前は何だろう」、「こんな花、見たことがない」など、日頃聞かない言葉が部屋を華やかにしてい...
先日、Nさんから1枚の写真付きのメールが届いた。着生ランのカヤランと記されていた。「着生ラン」という言葉は、私にとって時を越えて伝わるメッセージのようで、懐かしい記憶の扉を開けてしまった。 —私は風ランの小鉢を、5~6年精魂込めて世話...
あるものを見せるため、孫を連れて希望が丘の中央道を上って行った。坂道になってくると、「じいちゃん、まだなの」と喘ぎながら訴えてきた。「もうすぐだよ」と苦しさを紛らすため、そう言った。また少し登って行くと、同じことを聞き直してきた。で...
春の野に咲くタンポポは、種を飛ばす時期になると、芸術作品のような姿に変わります。白い綿毛が集まってできた、美しい球体の形を見せてくれます。 花が咲き終わった後に現れるこの白くふわふわした球体は、完璧な「球」の形をしています。中心か...
日が暮れる頃自動車を運転していると、ある一角から溢れんばかりの「赤味かかった紫色」が飛び込んできた。紫色と言えば、赤の持つ活力や生命力というのか、また青の持つ冷静さや深みの相容れない色調が共鳴しあっている色である。単なる自然の色彩の...
タムシバを知ったのは、四月上旬のこと。カクレグラからタイジョウを経て、雨乞岳の裾野にある杉峠を目指していた。雲の切れ間から永源寺ダムへと通じる佐目子谷がかすかに姿を現し、眼前には屏風のような山並みが広がっていた。その手前の谷筋を覆い尽...
友人から琵琶湖河畔の鳥の情報を聞き、カメラを手に出かけた。新春の陽光が穏やかに降り注ぐ琵琶湖。その水面には、今日も無数のユリカモメたちの憩いの場となっていた。白い羽を広げ、優雅に舞う彼らの群れは、湖面に映る陽光と相まって、侵しがたい...
冷たい冬の風がまだ肌を刺す頃、柿の木の木陰で今年も小さな命を見つけた。雪をまとったフキノトウだった。冬場の色彩の少ない景色の中で、若草色は一段と鮮やかで、ひときわ華やかだ。 フキノトウと聞くだけで、その言葉の響きから、まさに早春...
2017年、鯖街道沿いの葛川細川過疎集落で行われた「遺された村の美術館」を訪れた際、案内状の背表紙に写された一枚の写真が私を引きつけた。これを機に、樹の枝が幹から分岐する「節」に心を留めるようになった。この自然が織りなす有形物には...
我が家の庭の片隅に、ある朝、十字型の花弁を持つ小さな白い花を見つけました。その名は、イオノプシディウム・アカウレ。―はるかポルトガルを故郷とする異国からの訪問者だった。 約10,770kmもの距離を隔てた地から、風に運ばれ、鳥に託...
2025年新年の始まり、光を求めて 2025年の正月、年の始めとして、新しい年を迎える日の入りと日の出を三日間眺めに行った。友人が、その場所を設定してくれた。野洲川にはJR電車の橋から琵琶湖までに7つの橋が架けられている。そのうち、...
ある日、滋賀県南部と三重県境近くにある岩尾山へ、Aさんと出かけた。 山麓には「一本杉」の名で親しまれている古木がある。 この杉には、「最澄がここで食事をした後、地面に挿した箸が成長して大木になった」という伝説がある。平安時代に生ま...
野洲市の自然は、豊かで美しい。「近江富士」と呼ばれる三上山、そして清らかな野洲川がその象徴だ。四季折々の花々が咲き乱れ、野鳥がさえずる中、私は山野草を追い求めた。その中でも特に心惹かれたのがランの仲間たち。春ラン、カキラン、金ラン、...
今年の夏は、いくら「暑い」と言っても収まらない日々が続き、「寒い」という言葉がなくなったかのように感じられた。しかし、ようやく紅葉の秋が訪れた。 友人から「キッコウハグマ(亀甲白熊)」をやっと見つけたと、誇らしげなメールが届いた...